小型船舶の定期検査(あわせて船名変更・航行区域変更・航行制限解除)の手続き

 ここに、私の船である「くじら12号」の平成25年9月30日に行った船舶定期検査手続きの様子をご紹介します。私の場合、単に定期検査を受検するだけでなく、定期検査とともに他の手続きも併せて行おうとしました。定期検査と併せて行うことにより、それぞれの手続きにかかる手数料がかからなくてすむからです。そして定期検査+他の手続き+検査関連の諸々の作業が加わったため、たいへんな作業になってしまいました。準備のための期間は1年以上、そして検査前日と当日は汗だくだくの肉体労働となりました。そんなてんやわんやをありのままにお伝えしますので、ご自身の船の検査の際に参考にしていただけたらと思います。
 船検は自分でやってできなくもない手続ですが、たった数分の検査のために一日仕事を休んだり、わざわざ指定された日にマリーナ等に出向くのは休日がもったいないかなぁと思います。さらに検査に合格しなければ再検査になってしまいもう一日余計にかかってしまいます。ぜひ「船検を得意とする海事代理士」に依頼しましょう。

1. 日本小型船舶検査機構(以下JCI)千葉支部からの「小型船舶定期検査のお知らせ」
 車が車検の時期になっても陸運局や軽自動車検査協会などから「そろそろ車検ですよ」というお知らせは届きません。ディーラーで車を購入したのならディーラーの営業マンからハガキが届くこともありますが、個人売買や譲渡で手に入れた車などは自分で車検の時期を管理しなくてはなりません。しかし、小型船舶の定期検査は検査を行う主体であるJCIから「そろそろ船検ですよ。忘れずに受検してください。」というお知らせのはがきが届くのです。そして、いよいよ定期検査の期日が過ぎ、しばらく放置していると、「あなたの船は検査切れですので航行できませんよ。これからでも間に合いますからぜひ検査を受けてください。」というお知らせが再度やってくるのです。なんて親切なことでしょう。JCIの統合も進んでいるし、検査の件数も減ってきて、JCI自身がいろいろな面で厳しいのかなぁ、だから積極的に検査を薦めて営業活動しているのかなぁなんて想像してしまいました。私自身検査の日は忘れていませんでしたが、こうした案内がくると「あっ、そうだった!」と思う人も多くいるんだろうなぁと思いました。

JCIの「船舶検査のご案内」

自主整備点検記録

船検の整備と申請について

NOx規制について

平成25年出張検査予定表

返信用封筒

封筒

2. 定期検査だけではない他の手続き
 今回、定期検査に併せて3つの手続きを行いました。それは「船名変更」「航行区域変更」「航行条件変更」です。それぞれの手続きは定期検査のときでなくてもいつでもできるのですが、定期検査と併せて実施することにより無料になるのです。そりゃあ手数料がかからないほうがいいでしょう。がまんして定期検査の期日を待っていました。<br />
 まずは「船名変更」です。私の船は中古艇で、前のオーナーが秋田の十和田湖で使っていた船でした。釣り用の船として数年間使用していたようです。その前の持ち主が名づけたのか、それとももっと前の持ち主が名づけたのか分かりませんが、船名は「LOVE」でした。バブル最盛期の頃の船ですので、船名もバブリーな感じがしますね。しかし、私は「ちょっとその船名は・・・」と思っていましたので、譲渡のときからずっと変更したいと思っていました。以前私が所有していた船が「バーバレラ」でしたので「バーバレラ2世」というのもいいかなぁなんて考えていました。まぁ、船は「女性」だから女性の名前をつけるのがいいといいますしね。
 しかし、最終的には「くじら12号」にしました。すぐに覚えてもらえるインパクトのある名前、Judy&amp;Maryが好き(特にYUKIちゃん)、すでに「くじら12号」というテーマソングがある、そして無線の呼出符号として判別しやすいというのがその理由です。譲渡の際にそれを決め、まずはニックネームとしてこの定期検査まで呼ぶこととしました。
 次に「航行区域変更」です。前オーナーは十和田湖での釣りでしか使っていなかったため、当然「平水区域」で必要十分でした。しかもお住まいが内陸でしたので海に出ることもなかったみたいです。しかし、私は東京湾と霞ヶ浦湖畔に近いところに拠点を持っているため、「海に出たい」と思っていました。本当は「沿海区域」を目指したかったのですが、現実問題あの小さな小船で20海里も沖に出るのは「風船おじさん」並みの無茶振りかなと思ったので、限定沿海でひとまず海の経験を増やそうと思いました。恐らくはおっかなくって東京湾からは出られないだろうし、銚子沖も1海里も行けばいいほうでしょう。そこで限定沿海の中でも沿岸区域と2時間限定沿海区域の選択になるのですが、私はあえてハードルの高い沿岸区域を選択しました。理由は単純なものです。「2時間限定」が私の性に合わないからです。緯度経度ではっきりとしないのが何か嫌なのです。つくづく理系の人間だなと思います。
 そして最後に「航行条件変更」です。いままでは「日の出から日没まで」しか航行できない航行条件がついていました。理由は灯火がついていなかったからです。私が自分の船を所有したらやってみたかったこと、それは花火大会を自分の船で見に行くことです。それには夜間航行ができるような状態にしなければなりません。夜間航行可能な状態とは、船の機能を整えることと、船長の経験を整えることの二つになりますが、前者は船検でパスすれば叶うことです。これはどうしてもやっておきたかったことです。

3. まずは法定備品の収集です
 船は航行区域によって搭載しなければならない法定備品がかわってきます。ここで私がくじら12号を譲り受けた時点で揃っていた法定備品と新たに揃えなければならなかった法定備品を挙げてみたいと思います。なお、もともとの航行区域である平水区域とこれから変更しようとする沿岸区域との比較で併記してみました。
※くじら12号は5トン未満、12m未満、船外機、定員5名

法定備品 平水区域 沿岸区域 備品の有無
係船索(ロープ) 2本 2本 ▲1本は新規購入(100m)
アンカー(いかり) 1個 1個 有(10kgダウンフォース)
アンカーチェーンまたは索(ロープ) 1本 1本 有(巻き取り機付)
小型船舶用救命胴衣 定員と同数 定員と同数 有(TYPE A)
小型船舶用救命浮環又は
小型船舶用救命浮輪
1個 1個 有(2個有)
小型船舶用信号紅炎 1セット又は不要 (注1) 1セット ●なし(実は3セットも購入)
小型船舶用火せん --- 2個(注2) ●なし(国際VHF25W購入)
小型船舶用粉末消火器又は
小型船舶用液体消火器
1個 1個 有(赤バケツ。しかし消火器も 購入
バケツ及びあかくみ 1個 1個 有(赤バケツ)
音響信号器具 1個 1個 有(笛)
双眼鏡 --- 1個 ●なし(25x-100xなので手振れが激しい)
ラジオ --- 1個 ●なし(Makitaの工事現場用 のラジオを購入)
コンパス --- 1個 ●なし(航海用のちゃんとし たものを購入)
マスト灯 1個 1個 ●なし(Koito製を購入)
舷灯または両色灯 1対または1個 1対または1個 ●なし(Koito製舷灯1対購入
船尾灯 1個 1個 ●なし(マスト灯と兼用)
停泊灯 1個 1個 ●なし(マスト灯と兼用)
紅灯 2個 2個 ●なし(「港域、航路等を頻繁 に航行しないと不要」とあるが「頻繁」の基準が分からないため購入
黒色球形形象物 2個 2個
海図 --- 1式 ●なし(S-Guide東日本購入)
航海用レーダー反射器 (レーダーリフレクタ) --- (湖川のみで不要) 1個 ●なし(確かレーダーリフレク ターの適用除外になる古い年式の船なので不要と思うが、高いものではないので購入)
ドライバー 1組 1組
レンチ 1組 1組
プライヤー 1個 1個
プラグレンチ 1個 1個

(注1)有効な無線設備(有効な無線設備とは、「漁業無線」、「国際VHF(5W 型国際VHF※を含む。」、「ワイドスターマリンホン等(自動追尾機能要)」、「インマルサットミニM、fleet F33、fleet F55」、「イリジウム(国内でイリジウム無線局免許を取得した電気通信事業者のものに限る。)」、「携帯・自動車電話(当該船舶の航行区域が電話のサービスエリア内にあるものに限る。)」、「EPIRB」、及び「持運び式双方向無線電話装置」をいう。)を備えるものは不要
(注2)有効な無線設備(有効な無線設備とは、「漁業無線」、「国際VHF(5W 型国際VHF※を除く。」、「ワイドスターマリンホン等(自動追尾機能要)」、「インマルサットミニM、fleet F33、fleet F55」」、「イリジウム(国内でイリジウム無線局免許を取得した電気通信事業者のものに限る。)」及び「EPIRB」をいう。また、「携帯・自動車電話(PHS等を除く。)」を備える船舶は、1個減ずることができる。)を備えるものは不要。

 こうしてみると、いろいろと不足があってたくさんのものを購入したなぁと思います。まぁ新品で一気にそろえれば何なく集まるものではありますが、「何とかお金をかけずに」「なるべく安く」やろうとしたらこれらの不足法定備品購入に1年以上の年月を費やしてしまいました。しかし不足備品を新品でそろえたら30万円位するところを7万円くらいで済ませられました。
 しかし、実は「隠れた経費」があったのです。例えば灯火類を設置する金具は船に合うようにフルオーダー(設計は私、製作はステンレス加工所)で作りましたし、スイッチやコード・ねじ類が意外に経費がかさむものでした。それらに+5万円くらいかかっていると思います。備品周辺パーツを揃えるのも一苦労でした。

4. 備品の船体への取り付け
 備品やパーツが揃ったところで、今度はそれらの設置工事をしなければなりません。灯火類の配線、船体への穴あけとボルト締めそしてコーキングなどです。時には半田ごてとテスターを持ったり、時にはドリルとインパクトあるいはL定規を使ったりしながら、週末ごとに船に通い、のべ1ヶ月ほどかけて取り付けを行いました。
 中でも苦労したのが、マスト灯の設置場所です。ちょうど船体の中心にボルトをつけられそうな部分がないので、船体の中心よりややずれたところから角度8度の傾きを使って私が図面を引いてポールを設計し、ステンレス加工所で設計どおりにステンレスパイプの曲げや溶接をしてもらって作成しました。しかも、艇庫の屋根の高さの問題で停泊灯ポールをボルトで常時船体に固定できないため、航海の都度停泊灯ポールの脱着ができるように工夫しました。
 この船体への取り付け工事の中で気をつけなければならなかったのが、アスベストであります。本当かどうかは分かりませんが、古いFRP船にはアスベストが混ざって使用されているという噂がありました。FRP船体をジグソーで切ったり、ドリルで穴を開けたり、サンダーで削ったりする度に出る白いFRPの粉を吸い込まないように特殊な防塵マスクと防護メガネで身を守りました。また作業中のケガ防止(虫刺され防止の意味も有)のため長袖長ズボンと作業手袋をしていたため、真夏は熱中症気味になり作業能率があまりあがりませんでした。さらに時にはシンナーやベンジンなど有機溶剤も使用するため、防毒マスクも必要になるときもありました。狭い船室内での作業で完全防備の衣装を身にまとった私は不審者以外の何者でもありませんですね。おまけに艇庫の近くにスズメバチが巣を作り、ハチ対策という余計な仕事も増えてしまいました。
 昔から物を作るのが好きだったため、こうした作業は全然苦にならないのですが、さすがに遅々として作業が進まないと辛い気分になりますね。特にホームセンターで間違ったサイズのネジを買ってしまったり、あるいは自宅にパーツを置き忘れたりするとその時点で作業がストップしてしまい、ショックを隠しきれません。1つ作業が完了すれば1つ問題が発生し、その問題を克服するとまた新たな問題が発生する。そんなことが幾度となく繰り返されました。

5. 次はエンジン整備です。
 くじら12号にはエンジンが2機あります。75馬力2サイクルの主機と3馬力2サイクルの補機です。そのうち、補機のほうは、私がくじら12号を購入する時点から、前オーナーに「補機は要整備ですので」と言われておりました。補機ですので緊急時以外使用しない・・と、しばらく放置していましたが、いよいよ船検が近づいてきましたので、「ぼちぼちやろうか」と重い腰を上げました。小型船舶の免許を取る際には船内外機の構造は一応勉強するのですが、船外機の構造については勉強しません。よって私は船外機の構造など全く分からなかったのです。しかし、世の中は便利になったものです。たまたまYouTubeでヤマハの船外機の整備研修会のビデオを発見しました。私はそれを食い入るように何度も見て、一応頭の中には構造を入れて、あとは実機でオーバーホールをチャレンジしてみることにしました。「万が一壊れても、いい授業料と思い、事務所看板のオブジェにでもするか」という覚悟で船外機の解体をはじめました。
 おおっと解体の前に、いちおうリコイルスターターをまわしてエンジンがかかるかやってみましたが、30分やってもかかりませんでした。以前私は3輪のダイハツミゼットMP5に乗っていたため、2サイクルエンジンについては多少いじることができます。そんな経験から「おそらくキャブレターの詰まりだな」と想像し、キャブクリーナーをカー用品店より購入し、キャブの清掃にとりかかりました。だいたいエンジンの解体をするときにはガスケットの交換もするのですが、ヤマハからパーツとして買うと高いし届くまでに時間がかかるので、ガスケットシートをホームセンターで購入し、古典的な方法でガスケットは製作しました。・・・古典的な方法とは・・・ガスケット装着部分に水でぬらした紙を貼り付け鉛筆でこすり出し型を取るのです。それはまるで10円玉を鉛筆でこすりだして移し出す様にです。そしてその型紙をガスケットシートに貼り、あとはカッターやハサミでチョキチョキするだけです。そしてキャブをちょいちょい洗って、向こう側が見える穴になったら元に戻しエンジンをスタート!・・・ブーブ、ブ・ブ・ブ・ブと2サイクル独特の音でエンジンがかかりました!(おめでとう)!・・・しかし時間は深夜1時、東京の都心の住宅街で深夜1時に響く2サイクルのマフラーなしの船外機の音。あわててエンジンストップしました。もし今度は逆にエンジンが止まらなくなったら、確実にパトカーが自宅にやってきたでしょう。
 補機のエンジン部分は修繕できましたが、ついでにインペラやスクリュー周りを見てみようと解体したところ、インペラ周りの破損がすごかったのです。外見はきれいなエンジンなのですが、中はこうなっていたのですね。中に入っていたごみや破損状況から想像すると、浅瀬で取水口から湖底の土や藻が入り込みインペラを破損、破損したインペラのゴムがハウジングにとどまりインペラは回転せずハウジングごと焼きついてしまったというところでしょうか。インペラのゴムが炭化しハウジングに固着していたのです。よってインペラ周りのパーツを一式交換し、晴れて正常な船外機に復活を遂げることができました。
 そしてつづいては主機です。まあ、主機は調子よくエンジンがかかり、陸上チェックでは何の問題もなかったので安心していたのですが、一応念のためと霞ヶ浦にトレーラーで運び、湖面に浮かべてエンジンをかけますが、冷却水が出てこない・・・こちらもインペラ周りの破損があるようです。あるいは冷却水ホースの詰まりか?とりあえずインペラを注文しましたが、エンジンはかかるため、インペラ周りの本格的な修理は船検の後にしようと、後回し後回し。

壊れたインペラとインペラまわり

6. 船検の申込
 くじら12号の整備や備品調達の準備がある程度目星が付いたので、いよいよ定期検査を受検することを決めました。平成25年8月下旬に平成25年9月30日に受検する申込を行いました。本来なら平成25年6月末までに検査を受けなければならなかったのですが、確実に船検切れです。3ヶ月遅れでの検査に相成りました。
 ここでもJCIの対応にびっくり。船検の申込をしたら、わざわざ電話で「船検の申込をいただきありがとうございました。つきましては、前日ないし前々日に検査の詳細についてこちらからご案内のお電話をさせていただきます。その時に現地での待ち合わせ場所とかをお打ち合わせさせていただきたいと思っています。」との案内がありました。許認可権限を持っている検査機関であるのにちっとも偉そうにしない。「検査をしていただくお客様」のような対応です。

7. 最後の追い込み
 検査の日にちが決まったらお尻に火がついたようなものです。まだまだ手をつけられていなかった、国際VHFの配線工事やGPSレシーバーの設置、汽笛用の拡声器の設置など立て続けに作業を急ピッチで進めていきました。ちょうど真夏も過ぎ、暑さが幾分和らいできたので、作業しやすいこともありました。でもやっぱり日中は暑いので、早朝から午前中と、夕方から夜にかけて9月の週末はほとんど船の上での作業となりました。
 そしてようやく船検1週間前、ほとんどすべての基本的な作業が終了し、まあ80%程度完成となったので、「作業終了宣言」をし、一人で船の上でビールで乾杯しました。・・・余分な配線処理とか、コーキングとか細かいところはまだ終わっていないのですけどね・・・

8. 船検3日前
 船検3日前にJCI千葉支部から電話がかかってきて、9月30日の打ち合わせをしたいという。んんっ? まてよ? そういえばJCIは「前日か前々日に電話する」と言っていたような。だから9月28日(土)か29日(日)に電話がかかってくると心積もりしていたのに・・・1日早い! まぁ両日とも土日だからJCIの営業時間内の金曜日に電話したのでしょう。電話がかかってきたとき私は仕事中でしたので、後ほど折り返しのお電話をしました。

 JCI「検査は11時20分、場所は大山スロープでいいですか?」
 私「1日あけてありますので何時でもかまいません。ただし場所についてなのですが、大山スロープは何百メートルもあって長いのですが、どのあたりにいたらいいでしょうか?」
 JCI「ではL字型になっているスロープの短いほうにしましょう」
 私「分かりました」
 JCI「ところで沿岸区域に航行区域を変更するとのことですが、火せんとかの準備はありますか?」
 私「国際VHFで火せんが免除されるはずだと思うのですが・・・その免除を適用しようと思っています」
  JCI「いや、火せんは必要ですね。準備しておいてくださいね」  私「(JCIが国際VHFではダメだとの発言をしているのでちょっと自信がなくなり)ああっ、はいっ、分かりました」
といって電話を切りました。

 そこからは冷や汗。「ええっ、国際VHFではダメなのか? 急ぎ「火せん」を準備しないと」と思い、あわてて速達できるネットショップや、売ってそうな実店舗のサイトを探してみるものの、火せんは1本1万円くらいして、2本そろえなくてはならないため非常に高く、販売店に購入者登録をしなければならないため購入にあたって手続きが必要である。そのため、すぐには手に入らない。ううっどうしよう。いざとなったら「沿岸区域」をあきらめて「2時間限定沿海区域」にするしかないな。なんて頭がフル回転したが・・・「ちょっと待てよ、JCIが間違っているかもしれない。もう一度確認してみよう。」と、JCIのホームページを開き、参考資料の「小型船舶用法定備品一覧表」を見てみる。そして「小型船舶用火せん」の「沿岸区域」のところをみると「2個*」となっている。そして、「*」があったので備考欄に目をやると「* 有効な無線設備を備えるものは不要。[注2][注8]」となっている。そのうち「注8」をみてみると「有効な無線設備とは、「漁業無線」、「国際VHF(5W 型国際VHF※を除く。)」、「ワイドスターマリンホン等(自動追尾機能要)」、「インマルサットミニM、fleet F33、fleet F55」」、「イリジウム(国内でイリジウム無線局免許を取得した電気通信事業者のものに限る。)」及び「EPIRB」をいう。また、「携帯・自動車電話(PHS等を除く。)」を備える船舶は、1個減ずることができる。」と書いてある。やっぱり25Wの国際VHF局を開局していれば「火せん」は不要なんだ、JCIはそのことを知らないんだ、ということを確信し、ほとんど注文寸前だった「火せん」は購入せずに、船検当日に検査員の方にそのことを伝えようと決めたのです。でも内心は、私の表の見方や解釈の仕方が間違っているのではないか、とも思い、絶対的な自信はありませんでした。

9. 船検前日、船を運ぶトレーラーに問題が・・・
 くじら12号はボートトレーラーで陸上保管してあります。よって乗るときは艇庫より1キロ離れた大山スロープまで船を運んで霞ヶ浦に浮かべます。今回の船検においても、トレーラーで大山スロープまで運ぶのでトレーラーの不備は大問題になります。今度はそのボートトレーラーに船検前日、2つばかり問題が発生したのです。(ちなみに船検は自宅陸上保管しているからといってJCIの検査員が自宅まで来てくれる訳ではありません。必ず船溜まりやマリーナなどに船を運ばなければなりません。)
 問題その1、タイヤの空気圧が異常に低い。どうしたのでしょう。パンクではないと思いますが片方のタイヤの空気圧がとても低くタイヤがつぶれているのです。舗装道路ならなんとか進みますが、艇庫付近は砂利道ですし、艇庫敷地内も凸凹した土なので、タイヤの接地抵抗が高いとトレーラーが先に進まなくなるのです。そこで、いつも使っているエアーコンプレッサーを作動させてタイヤの空気を入れようとしました。しかしタンク内の空気圧残はゼロ、電源を投入して圧縮空気を作らなければならなくなりました。私の駐艇場には東京電力からの電気はきていません。太陽光発電からエンジン発電機まですべて自前で電気を作っているのです。そこでまずは手っ取り早い電気ということで、車のインバーターからACコンセントをさしますが電力不足でコンプレッサーが作動しません。それもそのはずで、インバーターは150Wまで。とうてい電気が足りません。そこで、ホンダのエネポ(900WのLPガス発電機)を取り出しフルパワー発電してスイッチを入れますがこれもすぐにブレーカーが落ちてしまいます。どうやらコンプレッサーの始動時電力が不足しているようです。そこで最後の頼みの綱であるヤマハの4500Wのガソリン発電機を始動させることにしました。しかし、ここでもトラブル。ガス欠なのです。あわてて近くのスタンドにガソリン買いに行こうとするものの、財布の中身は1000円程度。その前に銀行にいかなくてはなりませんでした。美浦村は田舎なのでそうそう土日に開いているキャッシュディスペンサーがありません。その後、無事お金を下ろし、携行ガソリン缶に20リットルのガソリンを入れ、4500W発電機を始動させ、ようやくコンプレッサーに電源が入りました。
 しかーし、しかしです。今度はコンプレッサーオイルの覗き窓が経年劣化で割れてしまったのです。そしてその窓から大量のコンプレッサーオイルが噴出し、大変なことになりました。相手は熱を持った油です。簡易的にガムテープで止めるわけも行かず、熱いのをこらえながら素手で割れた覗き窓を押さえてなんとか規定の圧力まで空気を入れることができました。そして油まみれになりながら、抜けたタイヤの空気を少しは入れることができました。
 問題その2、ヒッチカプラーがヒッチポールにきちんと入らない。これは以前もそうだったのですが、そのことをすっかり忘れていて放置していた問題でした。確かにヒッチカプラーには2インチのヒッチボール用との表記があるのですが、2インチのポールがちゃんと奥まで入らないのです。すなわちカプラーがボールを包み込むのではなく、ただ単にその上に乗っかっている状態なのです。これでは段差で簡単にカプラーが外れてしまいますし、危険極まりないのです。トレーラーとあわせて1トンもあるボートが、勝手に転がってしまったら大きな事故になること間違いありません。しかし、ちょこっとカプラーを覗いてみたものの、その原因がよく分からないのです。今回は1キロ先のスロープまでなので、最徐行でやり過ごし、今後の整備課題としました。

10. 船検前日、法定備品に不具合発生
 船検前日、最後の最後の確認ということで、法定備品をひとつひとつ声に出して読み上げながら、船の上に広げてみました。そうしたら問題が見つかったのです。まず信号紅炎の期限がどれも切れていたのです。そもそも今年の3月に受検しようと思っていたのが、検査切れになり9月まで半年も先延ばしになっていたから、その間に信号紅炎の期限が切れてしまったのです。私はあわてて土浦市内にあるマリンショップに駆け込み、新鮮な信号紅炎を4200円で購入することとなりました。
 そしてもう一つの問題は海図一式代用品としての「S-Guide」が行方不明なのです。確かに神戸の海文堂で船検のために購入し、船室の中に入れたはずなのにない。私は大慌てで、対応策を考えました。まずは土浦市内の書店で海図を扱っているところを探し、そこで購入するというものです。ネットで検索したところ1件の書店がヒットしたのですが電話で問合せをしたところ、海図のことを知らないという。こりゃあダメだと思い次の手へ。次はマリンショップにおいていないか聞いてみました。そうしたところ、お取り寄せになるとのことです。今すぐ欲しいのに・・・そこで次の手です。茨城県美浦村に近いところにいる仲間の海事代理士なら持っているかもしれないからそれを借りようと。いろいろと思案した挙句、千葉県船橋市の先輩海事代理士の先生が古い東京湾の港湾案内なら持っているとのこと、いざとなったら借りるお約束をしました。ちょっとホッとしました。しかし、この日のために準備しておいた海図がないとはどうも解せません。一か八か、東京の自宅に帰って、事務所の本棚を見に帰ることにしました。そして70キロのドライブの後、自宅へ到着。真っ先に本棚を見たところ・・・・「あった!」・・・・ホッと胸をなでおろしました。すぐさま心配いただいた船橋の先生にご報告し、この件は一件落着となりました。
 こうして自分のケースで体験したことから考えると、同じような大慌ては他の方でもあるだろうなぁということが想像できます。私も海事代理士として、こうした緊急事態に対処できるように準備をしておくのが重要だということをつくづく感じさせられました。少なくとも海図と信号紅炎だけはいつでも販売できるように自宅事務所にひとつは置いておこうと思いました。

11. 船検当日、牽引車のテイラーに問題が
 昨日は被牽引車であるボートトレーラーの問題が発生しましたが、本日はそのボートトレーラーを引っ張る側である小型特殊自動車登録のテイラー(分かりやすくいうとトラクターかな)に問題が発生しました。なんとエンジンの回転数が徐々に低くなり、次第に停止してしまうのです。始動時は元気なのですが、5分も立つと元気がなくなってしまうのです。これはチョークが戻っていないことが原因(バネの劣化)であると後から分かったのですが、そのときは時間に追われているからそんなことに気づくよしもありませんでした。このとき船検まであと1時間に迫っていました。このまま艇庫から船を出せなければ、大山スロープまで船を持っていくことができないので、船検を受けることができなくなってしまいます。かといってテイラーが動かないと、1トンもある船とトレーラーを1キロ先まで手で押して運ばなくてはなりません。しかも砂利道や凸凹道もあります。考えるよりも行動だ!と、人間一人の力だけで押して引いて、艇庫から20メートル先の砂利道まで30分かけて引きずり出しました。そしてその後は車についていたヒッチポールを使って船を1キロ先の大山スロープまで運びました。当然ヒッチカプラーの調子が悪いので時速10キロ未満での走行です。いやいや続くものですね。

12. 船検実施
 私が待ち合わせの場所らしき位置で待っていると「日本小型船舶検査機構」と書かれた車を発見! 私のほうから駆け寄り、声をかけました。挨拶もそこそこにすぐに「船舶検査証書と船舶検査手帳を出してください」と、検査がスタートしました。法定備品についてはデッキに広げて出しておいたので、検査員は勝手にそれをチェックしていきました。法定備品で聞かれたのは、救命胴衣の数と保管位置、双眼鏡・ラジオ・コンパス・海図の所在、舷灯と停泊灯の取り付け位置と点灯試験、そして懸案の「火せん」です。
 私が改めて「火せん」は「国際VHF」が開局していると免除されるはずですが・・・と言うと、「ううっ?」と疑問な表情がなされました。そこで私は詳しく、「5W局では認められないけれど、25W局では認められるとJCIの法定備品一覧表に掲載されていますよ」と伝えました。そうしたら何やら資料を持ち出して調べ始めました。しばらく経って私の言っていることを確認できたのか、「それでは船舶無線局の局免と選任届けを見せてください」というので、用意していた無線局関連の資料を提示しました。おそらくは25Wの国際VHFの局免によって「火せん」を省略しようとしたケースは珍しいことだったのでしょう。その検査員は知らなかったようであります。しかし、私の言っていることが正しいと分かり、無事、火せんの省略はパスすることができました。
 こうして約30分にわたっての検査が終了し、検査員からは口頭で合格が告げられ、船検は終了しました。

13. 長い戦いを終えて
 船検の30分のために1年以上の時間と労力をかけてきたので、検査終了後はほとほと疲れ果て、しばらくはその場で霞ヶ浦を見ながらボーっとしていました。その間1時間半もその場に立ち尽くしていたようです。

14. 新船舶検査証書・新船舶検査手帳の到着
 検査終了から2日経った平成25年10月2日、JCI千葉支部より着払い郵パックが届きました。中をあけてみると、新しい船舶検査証書・新しい船舶検査手帳ほか以下の書類が届いていました。これですべて終了です。

船舶検査証書

船舶検査手帳

船舶検査記録

登録後の主な手続きについて

船検に合格された皆さんへ

貼り忘れ注意のご案内

JCIのタオル

ステッカー類

そして、変更した箇所を確認してみましょう

【船名】@船舶検査証書
「LOVE」から「くじら12号」に変わっています
【航行区域】@船舶検査証書
「平水区域」から「沿海区域」に変わっています。これだけ見ると「ええっ!沿岸区域でなくて沿海区域が取れたの?」と思われるかもしれません。しかし、「ただし、」以降の(1)(2)の記述で、その内容が「沿岸区域」を指していることが分かります。
【航行条件】@船舶検査手帳
記事部分に「航行区域変更」のほか「夜間航行禁止解除」も書かれています。
【火せん】@船舶検査手帳
四つ目、一番最後のところに「本船は、沿岸小型船舶の設備のうち小型船舶用火せんの代替物として国際VHFの備付けを認めた」と書かれています

 さあ、これで日本1周に出航だ!・・・いやまてよ、船長としての経験不足だから、まずは銚子沖に出るところからはじめてみます。(おしまい)

 

2018年07月05日